35号より  自然の呼び掛け「現代人のアンテナ」
                                 掃部光昭

 ある日のことです。三、四年前に定年退職されて、今は充実した老後を送っておられるというお方が、奥さんとご一緒にお出でになり、「和尚さん、やっと願いがかないました」と差し出されたの は「西国三十三箇所観音霊場の納経帳」でした。
開いて拝見させていただくと、一番那智山青岸渡寺から、三十三番谷汲山華厳寺まで、鮮やかな御宝印 と墨の文字が印されています。
このご夫婦はたいへん熱心に観音さまを信仰されており、健康で無事定年 まで働かせていただいたお礼に、観音霊場を巡られたとのことでした。

 お二人は山や野の自然道に入ると必ず素足になって歩かれたそうです。
アスファルトの道路では、 底の厚いシューズをはいていても足がいたくなります。
しかし、草や花に囲まれた土の道は、いたわるかのように足になじんで、とても歩きやすいそうです。
「足の裏から自然の息吹が、頭のてっペんま で染み込んでくるようでした。
お寺へお参りして、いつのまにか蝉が鳴き始めます。
いっしょにお唱 えしてくれているとしか思えません。
 私の身体と自然が一つに溶け合うのです。
あの気分こそ、仏さまが下さった『ご利益』に違いありません。
私たちは、もっと素直になって、自然の声に耳を傾け、自然の息吹を素肌で感じる必要があります。
自然はいつでも呼びかけている。
同じように、仏さま(観音さま)も、いつでも私たちに呼びかけていて下 さる。
それなのに、私たち現代人のアンテナは錆びてしまって、仏さまや自然から送られてくる電波をなか なかキャッチできないのです。」  

 錆びついてしまった現代人のアンテナという言葉が心に残りました。 この錆びを取り除くには、観音さまや自然の一木一草が呼びかけて下さる最高の場所善峯寺、雑踏を離れ、 眼下に京を眺め、別天地極楽浄土を散策し、心身のやすらぎのひとときを満喫していただき、当山の御詠歌 「よしみねよりも晴るる夕立」のごとき晴々しさを味わいつつ、再びお参りを心に秘めて下山されることが、 俗界の錆びが少しずつでも取り除かれる一つの手だてであり、観音さまの呼びかけに近づいていただくこと だと思う次第です。

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