34号より  なぜお坊さんは、葬式をするのでしょうか

                                 掃部光昭

 皆さんはお坊さんを見れば、やはりお葬式を連想しますか?
やっぱりそのイメージが強いですか――。
だけど、葬式をするのはお坊さんだけではありません。
神社の神主さんも、 キリスト教の神父さんだって葬式をします。
しかし日本 では今でも、ほとんどの葬式が仏教の教えにしたがった形、つまり仏式で行われていますので、神主さんや神父 さんが行っている葬式に出会うことはめったにありません。
だからお坊さんといえば葬式を連想されるようになっ たようです。
まるでお坊さんは葬式の専門家で、仏教で は葬式をすることが一番重要で大切な教えであるように思われますが、決してそうではありません。
葬式は、家族を失って悲しみの中にある遺族が、死んだ人が死後の良い世界に生まれてやすらかになってほしいと冥福を祈っ て、最後の別れをするための大切な儀式です。
ですから、 中心となって儀式をすすめ、仏教の教えを説いて死者や人びとを導くお坊さんにとっても大変に重要な仕事です。

 しかし葬式は昔から、お坊さんがどうしても行わなければならない重要な仕事というわけではなかったのです。
お坊さんはお釈迦さまの弟子として、その教えを学び、 自分の心を見つめて修行を積むことが重要な勤めなのです。
そしてお坊さんの修行の目的は、この世の真理を求 めて、人間が生きてゆくこと、死んでゆかねばならないことについて、しっかりとした心構えを作り上げるとこ ろにあるのです。
これを「悟り」と言うのです。


 ではな ぜ日本では今でも、ほとんどの葬式が仏式で行われてい るのでしょうか。
この秘密を解明するためには、すこし 歴史をひもといてみなければなりません。
そこで皆さん に質問してみたいのですが、皆さんがいつもお墓参りを したり、法事でお世話になったり、お盆のお経に来てく ださるお坊さんの寺は何というお寺ですか?
 またその お寺は何宗ですか? 
地方(イナカ)の人なら誰でも、 そんなお寺を思いあたると思いますが、東京や大阪のよ うに大きな都市や新しい町に住んでいる人の中には「そんなお寺はありません」と答える人がいるかも知れません。
しかしそのような人でも、お父さんやおじいさんの出身地へ行って調べてみると、親戚の人が今でもお世話 になっているお寺がきっとあると思います。
その家に葬式や法事があると、昔から必ずお世話になっている寺を 菩提寺とか檀那寺と言います。

 このようにお寺と一般の家とが仏教の儀式や行事について親密な関係を持ってい ることを寺檀関係と言います。
徳川幕府は、キリスト教を禁止するために特別な宗教政策を強力におしすすめました。
宗門改と言って、その家の人がキリスト教の信者 になっていないかどうかを厳しく取り締まったのです。
そ れが徹底して、どの家がどの寺に属しているかはっきり定まってしまったのです。そのため江戸時代には、一般 の家では所属の寺院から檀家であることを証明してもら わないと、結婚とか旅行とか移住とか火葬や埋葬など許可されなかったのです。
今で言えば区役所や町役場のよ うに、お坊さんが人びとの生活を取り締まり、戸籍を取り扱っていたのです。
所属のお寺がない人は普通の社会的 な生活をすることが困難だったのです。
このような密接 な関係の中で、檀家は経済的な援助をして寺を護り維持 し、寺は檀家さんの日常の教化をすすめて、その家に不幸があった場合は必ず菩提寺の住職が葬式を勤めたのです。
現在でもお坊さんが葬式をすることが多い理由は、 江戸時代のこの制度の影響によるところが大きいと言わ れています。

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